2025/06/04 10:25

神社への参拝というと「願い事をする場所」とお考えの方が多いのではないでしょうか。確かに、神様にお願いすることは参拝の一つの形ですが、本来の神社参拝には、もっと深い意味があります。
神社参拝の本質は「日頃の感謝を神様にお伝えし、心身を清めて神様とのつながりを深めること」にあるのです。普段の生活で受けている様々なご加護への感謝や、人生の節目でのご報告を忘れずに行うことで、より深いご加護をいただけると古くから信じられています。
願い事をされることも決して間違いではありませんが、まずは感謝の気持ちを込めてお参りしていただけると、きっと神様もお喜びになることでしょう。
まずは鳥居から|神様の世界への入口でのご挨拶
神社の入口に立つ「鳥居」は、私たちが暮らす俗世と、神様がいらっしゃる神聖な神域を分ける結界の役割を果たしています。鳥居をくぐることは、神様の世界に足を踏み入れることを意味するのです。
そのため、鳥居の前では必ず立ち止まって一礼してからくぐるようにしましょう。これは、神様のいらっしゃる神聖な空間にお邪魔させていただくためのご挨拶です。軽く会釈する程度で構いませんので、心を込めて行ってください。
また、参道の真ん中(正中)は神様の通り道とされているため、参拝者はなるべく左右どちらかに寄って歩くのが古くからのマナーとされています。特に正面の拝殿へ向かう際には、この点を意識していただければと思います。
ただし、混雑時や車椅子をご利用の方などは、安全を最優先に考えていただいて構いません。神様は私たちの心を何よりもご覧になっています。
手水舎での心身の清め|ただの手洗いではありません
鳥居をくぐった後は「手水舎(てみずしゃ)」で手と口を清めましょう。これは単なる「手洗い」ではなく、心身を清める神聖な行為です。昔から日本では、神様の前に出る前に穢れを祓い清めることが大切にされてきました。
基本的な手順は以下の通りです。
右手で柄杓を持ち、水を汲んで左手を清める
まず柄杓に水を汲み、左手にかけて洗い清めます
柄杓を左手に持ち替えて右手を清める
今度は柄杓を左手に持ち替え、右手を清めます
再び右手で柄杓を持ち、左手に水を受けて口をすすぐ
左手の手のひらに水を受けて、静かに口をすすぎます(柄杓に直接口をつけるのは避けましょう)
左手をもう一度洗い、柄杓の柄を清めて戻す
口をつけた左手をもう一度洗い、最後に柄杓を立てて残りの水で柄の部分を洗い流してから元の位置に戻します
心を落ち着けて、一つ一つの動作を丁寧に行うことが何より大切です。慌てる必要はありません。
なお、冬場など水が冷たい時期や、小さなお子様連れの場合は、簡略化していただいても構いません。
いよいよ神様へのご挨拶|二拝二拍手一拝の心を込めた作法
いよいよ拝殿の前に立ち、神様へのご挨拶をする時です。ここでは正式な作法をご紹介しますが、何より大切なのは神様への敬う気持ちです。
賽銭箱にお賽銭をお納めする
金額は「心を込めて納められる額」であれば、いくらでも構いません。五円玉(ご縁)や五十円玉(十分なご縁)を好まれる方もいらっしゃいますが、特に決まりはありません。大切なのは投げ入れるのではなく、静かに丁寧にお納めすることです
鈴があれば鳴らして邪気を払う
拝殿にある鈴には、その音で邪気を払い、神様に私たちの存在を知らせる意味があります。大きく揺らす必要はありません
二拝二拍手一拝を行う
二拝:腰を90度程度に折り、深く2回お辞儀をします
二拍手:胸の前で2回、はっきりと手を打ちます(右手を少し下にずらして打つとよい音が出ます)
一拝:最後にもう1回、深くお辞儀をします
拍手の後、手を合わせたまま心の中で感謝の気持ちやお願い事を静かにお伝えしましょう。この時、できればお名前と住所をお伝えしてから、感謝やお願いを述べると良いとされています。
なお、出雲大社では「二拝四拍手一拝」、宇佐八幡宮では「二拝四拍手一拝」など、神社によって作法が異なる場合があります。その神社の案内に従っていただければと思います。
気をつけていただきたいこと|神聖な場所でのマナー
神社は誰でもお参りできる開かれた場所ですが、神聖な空間であることを忘れてはなりません。知らず知らずのうちにマナー違反となってしまう行為もありますので、注意していただきたいポイントをお伝えします。
避けていただきたい行為
大声で話したり、騒いだりする
神社は静寂を大切にする場所です。会話は小声で
飲食しながら境内を歩く
食べ歩きや飲み歩きは控えましょう
手水の作法を軽視する
水を飛び散らしたり、柄杓に直接口をつけるのは避けましょう
拝殿の前で過度な撮影
記念撮影は構いませんが、神様の前では節度を持って
お賽銭を投げつけるように入れる
お賽銭は静かに、丁寧にお納めしましょう
ペットを連れての境内立ち入り
こうした行為は、神様への礼を欠くものとされています。神社では常に静かで清らかな気持ちを保ち、感謝の心を持って過ごすことを心がけましょう。
普段の生活でも神様とともに|日常に根ざした信仰のかたち
神社参拝は、特別な日の行事としてだけでなく、日常の中にも自然に取り入れることができます。私たち宮司は、むしろ日々の生活の中で神様を身近に感じていただくことをお勧めしています。
日常でできる実践方法
通勤途中の神社に立ち寄ってご挨拶
毎日でなくても、時間があるときに氏神様にご挨拶
家にあるお札やお守りに手を合わせる
朝夕、簡単に手を合わせるだけでも十分です
神棚を設置し、日々感謝をお伝えする
毎日お米やお水をお供えして、感謝の気持ちを込める
季節の節目に神社を訪れる
初詣だけでなく、季節の変わり目にもお参りを
人生の節目でのご報告
就職、結婚、出産、新築など、人生の大切な出来事をご報告
神様は、私たちの暮らしをいつもそっと見守ってくださっています。日々の中で少しでも神様への意識を向けることで、心が落ち着き、当たり前の日常にも感謝の気持ちが芽生えてくるものです。
地域の氏神様を大切に|身近な神様との深いつながり
特に大切にしていただきたいのが、お住まいの地域の「氏神様」です。氏神様は、その土地に住む人々をお守りくださる神様です。有名な神社に参拝することも素晴らしいですが、まずは地元の氏神様との関係を大切にしていただければと思います。
地域の神社は、その土地の歴史や文化の中心でもあります。お祭りなどの行事にも、可能な範囲で参加していただけると、より深いつながりを感じられることでしょう。
宮司からのお話|何より大切な「敬う心」について
神社参拝の作法には、それぞれに深い意味と長い歴史があります。しかし、形式だけにとらわれすぎる必要はありません。何よりも大切なのは、「神様を敬う心」と「感謝の気持ち」です。
正しい作法を知ることで、より清らかな心で神様と向き合うことができるようになります。また、作法の意味を理解することで、参拝がより深い体験となることでしょう。
完璧にできなくても構いません。神様は私たちの心を何よりもご覧になっています。大切なのは、真摯な気持ちで神様と向き合うことです。
この記事が、皆様の参拝がより豊かで意味深いものとなる一助となれば、宮司として大変嬉しく思います。神様のご加護が皆様にありますよう、心よりお祈り申し上げます。