2025/06/04 10:38

「神社とお寺ってどう違うんですか?」

宮司をしていると、本当によくいただくご質問です。お参りに来られた方から「ここはお寺?それとも神社?」と聞かれることもしばしば。確かに、普段なんとなく使い分けているけれど、いざ誰かに説明しようとすると「あれ?どう違うんだっけ?」となってしまいますよね。

この記事では、福岡県の小さな神社で宮司をしている私が、「神社とお寺の違い」について、できるだけやさしく、身近な例を交えながら解説いたします。参拝の意味を知ることで、より深く神社やお寺とのご縁を感じていただけたら幸いです。


そもそも何が違うの?|ルーツと信仰の対象


まず一番大きな違いから申し上げますと、神社とお寺は信仰の対象やルーツがまったく異なります。

神社は「神道(しんとう)」という、日本で生まれ育った信仰に基づいています。「八百万の神(やおよろずのかみ)」という言葉があるように、山や川、木や岩、さらには雷や風など、自然のあらゆるものに神様が宿るという考え方です。天照大御神(あまてらすおおみかみ)や素戔嗚尊(すさのおのみこと)など、日本の神話に登場する神々をお祀りしています。

一方、お寺は「仏教(ぶっきょう)」という、インドで生まれた宗教に基づく施設です。仏教は中国や朝鮮半島を経て、飛鳥時代(6世紀頃)に日本に伝わりました。信仰の対象は、お釈迦様をはじめとする仏様(如来、菩薩、観音様など)で、人々を苦しみから救い、悟りの境地へ導いてくださる存在です。

つまり、「日本の神様をお祀りするのが神社」「仏様をお祀りするのがお寺」というのが、最も基本的な違いなのです。

実は江戸時代以前は、神社とお寺が一緒になった「神仏習合(しんぶつしゅうごう)」という形も多く見られました。明治時代の「神仏分離令」によって現在のように分かれたという歴史もあります。


見た目で分かる違い|鳥居があるのは神社、山門があるのはお寺


神社とお寺は、建物の造りや見た目にも分かりやすい違いがあります。

神社の特徴

鳥居(とりい)があるのは神社の目印です。「ここから先は神様がいらっしゃる神聖な場所ですよ」という境界を示しています。鳥居にも種類があり、木製の明神鳥居、石造りの神明鳥居、朱色の稲荷鳥居など、神社によって様々です。

鳥居をくぐると、参道があり、その先に拝殿(はいでん)があります。拝殿の奥には、神様がお住まいになる本殿(ほんでん)があることが多いです。

建物の造りは、白木を基調とした清楚な印象で、屋根は茅葺きや檜皮葺き、瓦葺きなど様々です。また、入口付近には狛犬(こまいぬ)が一対で置かれていることが多く、「阿(あ)」と「吽(うん)」の表情で神社を守っています。

お寺の特徴

お寺の入口には山門(さんもん)と呼ばれる立派な門があります。この門をくぐると境内に入り、本堂(ほんどう)で仏様にお参りします。

建物全体が重厚な造りで、屋根には瓦が多く使われています。境内には五重塔や三重塔などの塔があることも多く、仏舎利(お釈迦様の遺骨)を納めています。

山門の両脇には仁王像(におうぞう)が配置されていることが多く、邪悪なものがお寺に入らないよう守ってくださっています。こちらも「阿(あ)」と「吽(うん)」の表情をしています。

その他の見分けポイント

鐘:お寺には鐘楼(しょうろう)があり梵鐘(ぼんしょう)がありますが、神社にはありません
墓地:お寺には墓地が併設されていることが多いですが、神社にはほとんどありません
のぼり:神社では「奉納」「祈願成就」などの白いのぼりが多く、お寺では「南無阿弥陀仏」「南無観世音菩薩」などの文字が見られます


参拝の作法も違います|音を出すのは神社だけ


神社とお寺では、参拝の作法にも大きな違いがあります。

神社での参拝作法

神社では「二拝二拍手一拝(にはい・にはくしゅ・いっぱい)」が基本の作法です。

鳥居をくぐる際は一礼
手水舎で心身を清める
拝殿前でお賽銭をお納めする
鈴があれば鳴らす
二度深くお辞儀(二拝)
胸の前で二回手を打つ(二拍手)
最後に一度深くお辞儀(一拝)
手を叩く音は、神様に自分の存在を知らせ、邪気を払う意味があるとされています。

お寺での参拝作法

お寺では、「合掌礼拝(がっしょうらいはい)」が基本です。

山門で一礼してから境内に入る
本堂前でお賽銭をお納めする
静かに手を合わせる(合掌)
心の中で願いや感謝をお伝えする
合掌のまま一礼
手を叩くことはありません。静寂の中で、心を込めて仏様とお話しするのがお寺の参拝です。

私が常々お伝えしているのは、作法を完璧に覚えることよりも、「敬う気持ち」が何より大切だということです。間違えてしまっても、神様も仏様もきっと温かく見守ってくださいますから、あまり緊張せずにお参りしていただければと思います。


どちらに行けばいい?|行事や祈願による使い分け


「〇〇祈願は神社とお寺、どちらに行けばいいんですか?」これも本当によくいただくご相談です。

神社で行うことが多い行事・祈願

初詣:新年のご挨拶
安産祈願・お宮参り・七五三:人生の節目でのご報告
厄除け・厄払い:災いを祓う
交通安全祈願:事故から守ってもらう
地鎮祭・上棟式:建築に関する安全祈願
商売繁盛・五穀豊穣:生活の繁栄を願う
縁結び・恋愛成就:人とのご縁を願う

これらは日本の伝統的な神道行事に由来するものが多いです。

お寺で行うことが多い行事・祈願

お彼岸・お盆:ご先祖様の供養
法事・法要:故人の冥福を祈る
葬儀:故人を極楽浄土へ送る
水子供養:亡くなった子どもの供養
祈祷・お守り:病気平癒、学業成就など
除夜の鐘:一年の煩悩を払う

仏教の教えに基づく、ご先祖様や故人に関することが中心です。

実際はそれほど厳格ではありません

ただし、これはあくまで「一般的な傾向」です。地域の慣習や、ご家族の信仰によって使い分けは様々です。

私の神社でも、「家族みんなでお参りしたい」「いつもお世話になっているから」という理由で、本来はお寺で行うような祈願をされる方もいらっしゃいます。大切なのは、その方の気持ちです。

迷った時は、近くの神社やお寺に直接ご相談されるのが一番確実です。私たちもそうですが、お寺のお坊さんも親切に教えてくださいますよ。


神社とお寺の意外な共通点


違いばかりお話ししてきましたが、実は神社とお寺には多くの共通点もあります。

日本人の心を支えてきた歴史

どちらも長い間、日本人の心の支えとなってきました。喜びの時も悲しみの時も、人々が手を合わせる場所として、地域に根ざしてきた歴史があります。

「感謝」と「祈り」の心

神道も仏教も、「目に見えないものへの感謝」や「祈りの心」を大切にしています。日々の暮らしに感謝し、家族の幸せを願う気持ちは、どちらも同じです。

季節の行事と地域のつながり

お祭りや法要など、季節の行事を通じて地域のつながりを深める役割も果たしています。神社の夏祭りも、お寺の盆踊りも、地域の皆さんが集まる大切な機会です。

心の安らぎを求める場所

現代社会で忙しく過ごす中で、静かに心を落ち着ける場所として、どちらも変わらぬ価値を持っています。


現代における神社とお寺の役割


最近は、神社やお寺の役割も少しずつ変化してきています。

心の健康を支える場所

ストレス社会と言われる現代、神社やお寺は「心の健康」を支える場所としての役割も大きくなってきました。静かな境内で過ごすことで、心が落ち着いたという声をよく聞きます。

文化や歴史を伝える場所

神社やお寺は、地域の歴史や文化を後世に伝える博物館のような役割も果たしています。建物や仏像、祭具などを通じて、先人たちの技術や美意識を学ぶことができます。

地域コミュニティの拠点

過疎化が進む地域では、神社やお寺が地域コミュニティの最後の拠点となっていることも多くあります。お祭りや法要が、地域の絆を保つ大切な機会になっています。


宮司として皆さんにお伝えしたいこと


神社とお寺は、それぞれ異なる文化と歴史を持っていますが、どちらも日本人の心を支える大切な場所であることに変わりはありません。

長年宮司をしていて感じるのは、神道も仏教も、根底にある「人を大切に思う心」は同じだということです。私たち神職にとっても、仏教の教えから学ぶことは多く、多くの神社が仏教との共存の中で歴史を重ねてきました。

大切なのは、形式にとらわれすぎず、「心を込めて手を合わせること」です。完璧な作法を知らなくても、感謝の気持ちや祈りの心があれば、神様も仏様もきっと受け止めてくださいます。

神社もお寺も、皆さんの気持ちを温かく受け止める場所でありたいと、いつも願っています。


最後に|それぞれの良さを大切に


神社とお寺は、見た目も作法も信仰の対象も違いますが、どちらも日本の大切な文化です。

違いを知ることで、それぞれの良さをより深く理解できるようになります。神社の清々しい空気感も、お寺の静寂な雰囲気も、どちらも私たちの心を豊かにしてくれる素晴らしいものです。

この記事を通して、神社とお寺の違いを知り、より深い理解と敬意を持って参拝していただけたら、宮司として本当に嬉しく思います。

そして何より、神社でもお寺でも、「ありがとうございます」という感謝の気持ちを忘れずに、手を合わせていただければと思います。その気持ちこそが、どちらの参拝でも一番大切なことなのですから。