2025/06/19 11:37
神社で参拝する際、「願い事ってどうやって伝えるの?」「声に出すべき?」「いくつ願っていいの?」と疑問に感じたことはありませんか?神様に失礼のないように、正しい作法で願いを届けたいという思いは多くの方に共通しています。
実際、私が宮司として日々お仕えしていると、参拝者の方々からこのような質問をよくいただきます。「間違った方法でお参りしていないか心配で...」という声も少なくありません。でもご安心ください。神社での願い事に絶対的な正解はなく、最も大切なのは神様への敬意と真摯な気持ちなのです。
この記事では、現役の宮司の立場から、願い事の伝え方や数、声に出すかどうかなど、よくある疑問にわかりやすくお答えします。参拝がより意味深いものになるよう、ぜひ参考にしてください。
願い事は声に出す?それとも心の中で?
神社での願い事は、声に出しても心の中で唱えても、どちらでも構いません。一般的には周囲の人への配慮から、心の中で静かに唱える方が多いです。神様には声を出さなくても心の中の願いが届くとされています。
実際、古来より神道では「心を神に向ける」ことが重視されており、声の大小は問題ではありません。境内が静寂に包まれているときなど、他の参拝者への配慮から心の中で祈ることは、むしろ思いやりのある行為といえるでしょう。
ただし、願いを強く意識するという意味では、口の中で小さく唱える程度の声を出すのも悪くありません。人によっては、声に出すことで集中しやすくなったり、気持ちが込めやすくなったりします。大切なのは、ご自身が一番気持ちを込めやすい方法で行うことです。
なお、祭典中やお祓いの最中など、神職が祝詞を奏上している間は、静寂を保つのがマナーです。そのような場面では心の中で祈るようにしましょう。
願い事は1つだけじゃないといけない?
「願い事は1つだけにするべき」と聞いたことがある方も多いかもしれませんが、神道では明確な決まりはありません。複数の願いをしても大丈夫です。
この誤解は、おそらく「欲張りは良くない」という一般的な道徳観から生まれたものでしょう。しかし、私たち人間の生活は多面的で、家族のこと、仕事のこと、健康のことなど、様々な願いを抱くのは自然なことです。神様もそのことをよく理解してくださっています。
ただし、欲張りすぎず、心を込めて具体的に願うことが大切です。たとえば、「家族が健康でありますように」「今年こそ試験に合格できますように」「新しい仕事がうまくいきますように」など、1つずつ丁寧に願うことをおすすめします。
むしろ注意すべきは願いの内容です。他人を害するような願いや、自分だけが得をするような極端に利己的な願いは避け、自分や周りの人々の幸せを願う気持ちを大切にしましょう。
願い事の前に「感謝」を伝えるのが基本
願い事だけを伝えるのではなく、まずは「今日も無事に参拝できました」などの感謝を伝えるのが理想的です。神道では、「祈る前に感謝する」という姿勢が重視されます。
これは神様との関係を一方的な「お願い」だけにしないという意味があります。私たちは日々、当たり前のように思っている健康や平和な日常も、実は多くの恵みによって支えられています。そのことに気づき、感謝の気持ちを表すことから始めるのが、神道の基本的な考え方なのです。
例えば:
・「いつも見守っていただき、ありがとうございます」
・「本日は無事に参拝の機会をいただき、感謝いたします」
・「家族みんなが元気に過ごせていることに感謝します」
このような感謝の言葉を心の中で唱えた後に、自分の願いを心を込めて伝えましょう。感謝から始めることで、自然と謙虚な気持ちになり、願い事もより真摯なものになります。
お願いするときの言葉づかいや心構えは?
神社での願い事に使う言葉は、敬語や丁寧語でなくても大丈夫です。神様に自分の心を正直に届けることが何より大切なので、普段の言葉で構いません。
時々「神様への言葉遣いが間違っていないか心配です」というご相談をいただきますが、神様は私たちの心の奥底まで見通していらっしゃいます。言葉の形式よりも、その奥にある真心を大切にしてください。子どもが親に話しかけるような、素直で率直な気持ちで十分です。
ただし、祈るときは「○○になりますように」など、前向きな表現を使うとよいとされています。「病気になりませんように」より「健康に過ごせますように」、「失敗しませんように」より「成功できますように」のように、肯定的な言い回しを意識しましょう。
これは言霊(ことだま)の考え方に基づいています。否定的な言葉よりも肯定的な言葉の方が、より良いエネルギーを生み出すとされているのです。また、前向きな表現は自分自身の気持ちも明るくしてくれます。
さらに、可能であれば自分の名前と住所を心の中で名乗ってから願い事をすることをおすすめします。これは神様に「誰が」お願いしているのかをお伝えするという意味があります。
オンラインでの願い事や祈願も可能?
最近では、直接神社へ行けない方のために、オンラインでのご祈願や御朱印の受付を行う神社も増えています。祈願内容をネット上のフォームで伝えることで、神職が神前で代わりにお祈りを捧げる形です。
このような取り組みは、特にコロナ禍以降に急速に広がりました。現代社会では様々な事情で神社に足を運べない方が多くいらっしゃいます。
オンライン祈願が適している場面:
・交通事情や体調不良などで参拝が難しい方
・遠方の由緒ある神社にご縁を結びたい方
・仕事や育児で時間が取れない方
・海外在住で日本の神社との繋がりを大切にしたい方
遠方の神社にもご縁を結べる手段として注目されており、全国の有名神社の祈願を受けることも可能になっています。ただし、やはり実際に神社に足を運び、神域の清々しい空気を感じながらお参りすることの価値も大きいものです。可能であれば、直接参拝とオンライン祈願を使い分けていただければと思います。
私たちの神社でも、オンライン祈願や御朱印郵送に対応していますので、気になる方はホームページをご覧ください。神職が心を込めて、皆様の願いを神前にお伝えいたします。
まとめ|願い事は「気持ち」が何より大切
神社での願い事は、声に出すか心の中か、1つか複数かに正解はありません。大切なのは、神様に対して敬意と感謝を持って願うことです。
作法に迷ったときは、「静かに心を込めてお願いする」という基本に立ち返ってみてください。そして、願い事をする前に今ある幸せに感謝することを忘れずに。神社はいつでも皆さんの心に寄り添ってくださる場所です。
堅苦しく考えすぎず、ご自身のスタイルで、安心してお参りいただければと思います。神様はきっと、皆様の真心のこもった願いに耳を傾けてくださることでしょう。