2025/06/19 13:07

神社に参拝するとき、「鳥居はどうくぐるの?」「参道ってどこを歩けばいいの?」と悩んだ経験はありませんか?

私が神職として境内で奉仕していると、参拝者の方々から「今まで知らずに真ん中を歩いていました」「正しい作法を教えてください」といったご質問をよくいただきます。中には「神様に失礼なことをしてしまったのでは...」と心配される方もいらっしゃいます。

実は、神社の境内には古くから大切にされてきた"作法"があり、それを知っているだけで参拝がぐっと丁寧で意味深いものになります。しかし、これらの作法は決して堅苦しいルールではなく、神様への敬意を表す自然な気持ちから生まれたものなのです。

この記事では、現役の神職の視点から「鳥居のくぐり方」や「参道の歩き方」、そして「真ん中を歩かない理由」についてわかりやすく解説します。初詣やお宮参り、観光で神社を訪れる方にも役立つ、神社参拝の基本マナーを学んでみましょう。


鳥居のくぐり方にも作法がある


鳥居は、神様の聖域(神域)と人間の世界を分ける「結界(けっかい)」のようなもの。くぐることで、私たちは神様の前に一歩足を踏み入れることになります。

古来より、鳥居は単なる門ではなく、神聖な意味を持つ構造物として大切にされてきました。鳥居をくぐる瞬間、私たちは日常の喧騒から離れ、神様の世界へと足を向けることになるのです。そのため、この瞬間には特別な心構えが必要とされています。


一礼してからくぐるのが基本

神様のいらっしゃる空間に入る前には、必ず鳥居の前で立ち止まり、一礼しましょう。これは「これから神域に入らせていただきます」という敬意のあらわれです。

お辞儀の深さは、軽く頭を下げる程度で十分です。深々と頭を下げる必要はありませんが、心を込めて行うことが大切です。この一礼は、神様への挨拶であると同時に、自分自身の気持ちを整える意味もあります。


中央は避けて通る

鳥居の中央は「正中(せいちゅう)」と呼ばれ、神様の通り道とされる神聖な場所です。参拝者は、鳥居の端(左側または右側)を通るのが礼儀とされています。

左右どちらを通るかに厳格な決まりはありませんが、一般的には右側(向かって左)を通ることが多いようです。これは、神道では「左上位」という考え方があり、神様から見て左側(参拝者から見て右側)がより尊い位置とされているためです。

ただし、神社によっては参拝者の流れや境内の構造を考慮して、通行する側が推奨されている場合もあります。混雑時には安全を優先し、周囲の状況に合わせて判断することも大切です。


参道の歩き方|なぜ真ん中を歩いてはいけないの?


参道とは、鳥居から拝殿へと続く道のこと。私たちが神社で最も歩くことになる道ですが、ここにも昔から守られてきたマナーがあります。

参道は単なる通路ではなく、神様の御前に向かう神聖な道です。歩く一歩一歩が、神様に近づく大切な時間でもあります。そのため、参道での振る舞いは特に重要視されてきました。


真ん中を避ける理由

参道の真ん中(正中)は、神様が通る「神様の道」と考えられています。そのため、参拝者は左右どちらかの端を静かに歩くのが作法です。

この考え方は、古くから日本の宮廷文化にも見られるもので、天皇や高貴な方々が通る道の中央を避けるという礼儀と共通しています。神社では、目に見えない神様が参道の中央を通られると考えられているのです。

格式高い神社であればあるほど、この作法は厳格に守られていることもあります。例えば、伊勢神宮や出雲大社などの由緒ある神社では、参拝者の多くがこの作法を自然に実践している光景を見ることができます。

また、参道が石畳になっている場合、中央の石材がより大きく、特別な意匠が施されていることがあります。これも正中が特別な場所であることを示しています。


歩くときの心構え

参道を歩く際は、以下のような心構えを持つとよいでしょう:

身だしなみを整える

帽子やサングラスは取り、きちんとした姿勢で歩きましょう。これは神様への敬意を示すと同時に、自分自身の気持ちを引き締める効果もあります。

静粛を保つ

スマートフォンを見ながら歩いたり、大声で話したりするのは避けましょう。私語を控え、なるべく静かに歩くことで、神聖な雰囲気を保つことができます。

足音や態度にも心を配る

足音を立てすぎないよう、ゆっくりと歩きます。急いでいても、神域では心を落ち着けて歩くことが大切です。

自然との調和を意識する

参道沿いには多くの場合、樹木や草花が植えられています。これらの自然も神域の一部として大切にされているものです。枝を折ったり、花を摘んだりすることは避けましょう。

神社は「願いを叶える場所」というだけでなく、神聖な場所であることを心に留めておきましょう。参道を歩く時間は、日常の雑念を払い、心を清める大切な時間でもあるのです。


帰りも同じように一礼してから


参拝が終わって神社を後にする際も、鳥居の外に出る前に立ち止まり、神様に一礼してから出ましょう。

これは人と人との「ご挨拶」と同じで、「お参りさせていただき、ありがとうございました」「これから日常に戻らせていただきます」といった気持ちを込めるものです。

多くの方が参拝時の一礼は覚えていても、帰りの一礼を忘れがちです。しかし、最初から最後まで丁寧にふるまうことが、神様とのよい関係を築く第一歩となります。

帰りの一礼には、もう一つ大切な意味があります。それは、神社で受けた清々しい気持ちや、神様からのご加護を心に留めて日常生活に戻るという意味です。この一礼によって、神社での体験が日常生活にもよい影響をもたらすことを願うのです。

また、神社によっては、帰り道も来た時と同じ側を通るという作法もあります。これは、神様の道である正中を一貫して避けるという考え方に基づいています。


知らなかった!という方へ|神様は心を見ておられます


「作法を知らずに神社の真ん中を歩いていた...」「今まで一礼せずに鳥居をくぐっていた...」と不安になる必要はまったくありません。神様は、形式よりも気持ちを大切にされる存在です。

大切なのは、神様に対して敬意をもって行動しようという心です。今回の記事で知識を得た方は、次回からできる範囲で実践していただければ十分です。

「今まで知らなかった」ことを恥じる必要はありません。むしろ、「これから気をつけよう」という気持ちこそが、神様が最も喜ばれることなのです。

また、小さなお子様や高齢の方、体の不自由な方など、作法を守ることが困難な場合もあります。そのような場合は、無理をせず、心の中で神様への敬意を表していただければ、神様はきっと理解してくださいます。

神社参拝で最も大切なのは、「神様への感謝と敬意の気持ち」です。作法はその気持ちを表現する手段の一つに過ぎません。


まとめ


神社参拝の基本的な作法をまとめると:

・鳥居は神様の結界 - くぐる前に一礼し、中央は避けて通りましょう

・参道の真ん中は神様の通り道 - 左右のどちらかを静かに歩くのがマナーです

・神社を出るときも一礼 - 最初から最後まで、敬意を忘れずに

・知らなかったとしても大丈夫 - 大切なのは神様への感謝と真心です

これらの作法を知ることで、神社参拝がより深い意味を持つようになります。しかし、何より大切なのは、神様への感謝の気持ちを忘れないことです。

神社での所作は、心を整え、神様とのつながりを深める大切な時間でもあります。作法を意識することで自然と姿勢も正され、心も清らかになります。一歩一歩、神聖な気持ちで参拝することで、より豊かで意味深い体験になることでしょう。

現代社会では忙しい日々を送る中で、神社という静寂な空間で心を落ち着ける時間は、とても貴重なものです。正しい作法を身につけることで、その貴重な時間をより有意義に過ごしていただければと思います。