2025/06/19 13:35

神社を訪れる度に、お賽銭箱の前で「今日はいくらにしようかな」と迷われた経験はありませんか。「5円玉がいいって聞いたことがあるけれど、なぜなんだろう」「10円じゃ少なすぎる?100円では多すぎる?」そんな疑問を抱えながら参拝される方も多いことでしょう。

長年宮司を務めさせていただいている私の経験から申し上げれば、お賽銭で最も大切なのは金額ではありません。しかし、せっかくお参りされるのであれば、その意味や背景を知って、より心を込めて参拝していただきたいと思います。この記事では、お賽銭の本来の意味から縁起の良い金額、そして参拝時のちょっとしたマナーまで、皆さんの疑問にお答えしていきます。


お賽銭の本来の意味とは?


お賽銭は、決して神様への「対価」や「お礼」ではありません。これは多くの方が誤解されやすい点なのですが、お賽銭は神様への「感謝の気持ちを表すしるし」なのです。

古来より、人々は神様に対して米や野菜、魚などの「お供え物」を捧げてきました。現代のお賽銭は、その名残として定着した習慣です。ですから、金額の大小によって願いが叶いやすくなったり、神様の扱いが変わったりすることは決してありません。

私が参拝者の皆さんによくお話しするのは、お賽銭を入れる時に「今日も一日、無事に過ごすことができました。ありがとうございます」という感謝の気持ちを込めることの大切さです。そして、「明日からも周りの人を大切にし、誠実に生きていきます」という、自分自身への誓いの気持ちを込めることが、何より重要なのです。


5円玉が縁起が良いとされる理由


「5円玉がいい」というのは、確かに多くの方がご存知の話ですね。これは「ご縁=5円」という語呂合わせから来ています。神様との良いご縁、そして人との良いご縁を願う気持ちが込められているのです。

さらに、5円玉をよく見てみると、稲穂、水、歯車が描かれています。これらは日本の農業、水産業、工業を表しており、国の発展と繁栄を願う意味も込められています。また、5円玉には真ん中に穴が開いていますが、これは「見通しが良い」という縁起の良い意味にも繋がります。

ただし、5円玉でなければいけないということは全くありません。私たち神職にとって大切なのは、その方がどんな気持ちでお参りされているかということです。


縁起が良いとされるお賽銭の金額いろいろ


5円玉以外にも、語呂合わせで縁起を担いだ金額がいくつかあります。これらは参拝者の皆さんが楽しみながら選ばれることが多いようです。

・15円(十分ご縁):満ち足りたご縁を願う

・25円(二重ご縁):ご縁が重なるように

・45円(始終ご縁):ずっと良いご縁が続くように

・115円(いいご縁):語呂合わせで良縁祈願

・125円(十二分ご縁):申し分のないご縁を

・485円(四方八方ご縁):あらゆる方向からのご縁を願う

これらの金額は、あくまで参拝者の皆さんが楽しみながら選ばれるものです。大切なのは、その金額に込めた気持ちなのです。


避けた方がいい金額はあるの?


基本的には、どんな金額でも真心があれば問題ありません。しかし、縁起を担ぐ観点から避けられがちな金額もあります。

10円は「遠縁(とおえん)」に通じるとして避ける方が多いようです。65円は「ろくなご縁がない」という語呂が良くないとされることがあります。

ただし、これらはあくまで語呂合わせの話です。実際に神社にお参りされる際は、こうした細かいことよりも、感謝の気持ちを忘れずに参拝していただくことの方がずっと大切です。

お札については、「高額すぎて恐縮してしまう」と感じる方もいらっしゃいますが、決して失礼なことではありません。特に人生の節目や重要な祈願の際には、お札をお納めになる方も多くいらっしゃいます。


お賽銭にマナーはあるの?


お賽銭を納める際の基本的なマナーをご紹介します。

参拝前の準備として、小銭を用意しておくことをお勧めします。賽銭箱の前で財布を開けてガサガサと音を立てるのは、静寂な境内では少し気になるものです。

お賽銭の入れ方は、投げ入れるのではなく、そっと賽銭箱に入れるのが丁寧です。「お納めください」という気持ちを込めて、静かに入れましょう。

参拝の心構えとして、お願いごとばかりではなく、まずは日々の感謝を伝えることから始めてみてください。「今日まで健康で過ごせたこと」「家族が元気でいること」「仕事があること」など、当たり前だと思っていることに感謝の気持ちを向けることで、より豊かな気持ちで参拝できるはずです。

また、参拝時は「神様、○○をお願いします」よりも「○○できるよう、私も努力いたします」という誓いの気持ちを込めることが大切です。神様は私たちの努力する姿を見守り、応援してくださる存在なのです。


オンラインでのお賽銭やご祈願も増えています


近年では、時代の変化に合わせて、オンラインでお賽銭やご祈願を受け付ける神社も増えています。これは決して伝統を軽視するものではなく、より多くの方に神様とのご縁を感じていただくための新しい試みです。

遠方にお住まいの方、お体の都合で参拝が難しい方、お忙しくて神社まで足を運べない方など、様々な事情を抱えた方々にとって、オンライン参拝は心の支えとなっています。

大切なのは、画面越しであっても、実際に神社を訪れた時と同じような敬虔な気持ちで向き合うことです。心を込めて祈れば、その気持ちは必ず神様に届きます。


まとめ|大切なのは金額よりも「心」


長年神職を務めさせていただいて感じるのは、お賽銭の金額よりも、その方の心の在り方の方がはるかに大切だということです。5円でも1000円でも、そこに込められた真心に違いはありません。

語呂合わせを楽しみながら金額を選ぶのも、その時の気持ちに合わせて金額を決めるのも、どちらも素敵な参拝の仕方です。ただし、どんな金額であっても、感謝の気持ちと誠実に生きていこうという決意を忘れずに。

神社は、皆さんの心を静め、日々の歩みを見つめ直す場所です。お賽銭を通じて神様と心を通わせ、より良い毎日を送るきっかけにしていただければ、神職としてこれほど嬉しいことはありません。

皆さんが心穏やかに参拝され、素晴らしいご縁に恵まれますよう、心よりお祈り申し上げます。