2025/07/02 10:06

「人生儀礼」という言葉をお聞きになったことはありますか。お参りに来られる方から「いつ、どんなときに神社にお参りすればいいのでしょうか?」というご質問をよくいただきます。

人生儀礼とは、人の一生の大切な節目ごとに行う伝統的な儀式のことです。日本では昔から、赤ちゃんの誕生、子どもの健やかな成長、大人への仲間入り、結婚など、人生の重要な場面で神社での儀式を大切にしてきました。

宮司として長年多くの方々の人生の節目に立ち会わせていただく中で、これらの儀礼がご家族にとってどれほど意味深いものであるかを実感しています。赤ちゃんを抱いて初めて神社にお参りする若いご夫婦の緊張した面持ち、七五三で晴れ着に身を包んだお子さんの誇らしげな表情、成人式で大人としての決意を新たにする若者たちの真剣な眼差し——。そうした瞬間に立ち会えることは、私たち神職にとっても本当に幸せなことです。

この記事では、お宮参り・七五三・成人式を中心に、神社と人生儀礼との深いつながりについて、皆さんにお話ししたいと思います。


人生儀礼とは?その意味と役割


人生儀礼とは、人の一生における大切な節目ごとに行われる、神聖な意味を持つ儀式のことです。

神道では、人生の各段階を神様に「ご報告」し、これまでのご加護への「感謝」をお伝えし、これからの歩みへの「祈願」を捧げるという、三つの大切な意味があります。単なる形式的な行事ではなく、神様とのご縁を深め、人生により深い意味を与える神聖な営みなのです。

私が日々拝見していて感じるのは、人生儀礼には家族の絆を深める力があるということです。お宮参りでは、新しい命を迎えた家族が一つになって感謝を捧げます。七五三では、子どもの成長を家族みんなで喜び合います。成人式では、大人になる子どもを見守ってきた親御さんの感慨深い表情を目にします。

神社で行われる代表的な人生儀礼には、「お宮参り」「七五三」「成人式」「厄除け」「結婚式」「安産祈願」などがあり、それぞれが人生の重要な通過点として、多くの方に大切にされています。


お宮参り:赤ちゃんの誕生を神様に報告する儀式


お宮参りは、赤ちゃんが生まれて初めて神様にお会いする、人生最初の儀礼です。生後約1か月頃に行うのが一般的で、無事に生まれてきてくれたことへの感謝と、これからの健やかな成長への祈りを込めて行います。

伝統的には、男の子は生後31日目、女の子は32日目とされていますが、現代では赤ちゃんやお母さんの体調、ご家族の都合を最優先に、無理のない日程で行われています。「必ずこの日でなければ」ということはありません。大切なのは、家族みんなが安心してお参りできることです。

お宮参りでは、宮司による祝詞奏上(のりとそうじょう)で赤ちゃんのお名前を神様にお伝えし、清め祓いによって健やかな成長を祈願します。私がいつも心に留めているのは、この瞬間から、その赤ちゃんが神様のご加護のもとで成長していくということです。

実際の祈祷では、赤ちゃんが泣いてしまうこともよくありますが、それも元気な証拠として温かく受け止めています。ご家族には「泣き声も神様への大切なご挨拶ですよ」とお伝えしています。

お宮参りの際には、祖父母も一緒に参拝される場合が多く、三世代が揃って新しい命を迎える喜びを分かち合う、とても和やかな光景が見られます。


七五三:子どもの成長と健康を願う日本の伝統行事


七五三は、3歳・5歳・7歳という子どもの成長の大切な節目に行う、日本独自の美しい伝統行事です。3歳は男女とも、5歳は男の子、7歳は女の子が対象となりますが、最近では兄弟姉妹で一緒にお参りされるご家族も多くなっています。

この年齢には、それぞれ深い意味があります。3歳は言葉が発達し、5歳は知恵がつき、7歳は歯が生え変わる時期として、昔から子どもの成長の重要な通過点と考えられてきました。医療技術が発達していなかった昔は、子どもが無事にこれらの年齢を迎えることができるのは、本当にありがたいことだったのです。

晴れ着に身を包んだお子さんたちの表情は、いつ見ても微笑ましいものです。着慣れない着物や袴で少し緊張しながらも、誇らしげに歩く姿は、成長の証そのものです。千歳飴を手にして嬉しそうにしているお子さんを見ていると、私も自然と笑顔になります。

近年では、11月15日にこだわらず、ご家族の都合の良い日にお参りされる方が増えています。特に10月中旬から11月下旬にかけての期間に、多くのお子さんたちが七五三のお参りに訪れます。

七五三の祈祷では、お子さんの健やかな成長への感謝と、これからの無病息災、学業成就などを祈願します。お子さんが少し騒いでしまっても、それも元気な証拠として温かく見守っています。


成人式:大人になる節目を迎える厳かな儀式


成人式は、20歳を迎えた若者が大人としての自覚と責任を持ち、社会の一員となることを神様の前で誓う、人生の重要な節目です。

地域の自治体による成人式典とは別に、神社では成人祈願祭を行うことができます。ご家族と一緒に神社にお参りし、これまで無事に成長できたことへの感謝と、これからの人生が実り多いものとなるよう祈願します。

成人祈願に来られる若い方々と接していて感じるのは、やはり20歳という年齢が持つ特別な重みです。高校を卒業し、大学生として、あるいは社会人として新しい環境に身を置く中で、自分自身の成長を実感し、これからの人生への決意を新たにする姿は、とても清々しいものです。

最近では、親御さんも一緒に参拝される場合が多く、わが子の成長を見守ってきた保護者の方々の感慨深い表情も印象的です。「ここまで育ててくれてありがとう」という感謝の気持ちを、神様の前で改めて確認し合う、温かい時間でもあります。

振袖や袴に身を包んだ新成人の皆さんが、少し緊張しながらも真剣に祈祷を受けられる姿を見ていると、日本の伝統文化の美しさと、それを大切に受け継いでいく若い世代の存在を心強く感じます。


その他の人生儀礼と神社との関わり


人生には、お宮参りや七五三、成人式以外にも、神社でお参りしていただける大切な節目がたくさんあります。

安産祈願では、戌の日を中心に、妊娠5か月頃から安産と母子の健康を祈願します。戌は多産でお産が軽いことから、安産の象徴とされています。

初節句では、男の子の端午の節句、女の子の桃の節句に、健やかな成長を祈願します。入学・卒業・就職といった人生の新しいスタートの時期にも、多くの方がお参りにいらっしゃいます。

厄除け・方位除けは、人生の中で特に注意すべき年齢や時期に、災厄を避け平安を祈る大切な儀礼です。男性は25歳・42歳・61歳、女性は19歳・33歳・37歳が本厄とされています。

神前結婚式では、神様の前で永遠の愛を誓い、夫婦としての新しい人生をスタートします。還暦や古希などの長寿祝いでは、長い人生への感謝と、これからの健康を祈願します。

これらすべてに共通するのは、神様の御前で人生の大切な節目を迎えることで、その瞬間により深い意味と価値を与えるということです。


神社で人生儀礼を行う意味とは?


神社で人生儀礼を行う本当の意味は、単なる形式的な儀式を超えて、神様とのご縁を深め、人生により深い精神性を与えることにあります。

人生の節目を神様にご報告し、これまでのご加護への感謝をお伝えすることで、私たちは自分の人生が多くの見えない力に支えられていることを改めて実感できます。そして、これからの歩みがより実り豊かなものとなるよう、神様のお導きを仰ぐのです。

また、家族そろって神社にお参りし、伝統的な儀礼を大切にすることは、子どもたちに感謝の心や信仰心を伝える貴重な教育の機会でもあります。神様への敬意、祖先への感謝、家族の絆の大切さといった、現代社会で忘れがちな価値観を、自然な形で次の世代に受け継いでいくことができます。

私が長年の奉職の中で確信しているのは、人生儀礼を大切にされるご家族ほど、家族の結束が強く、お互いを思いやる気持ちが深いということです。神様の前で共に祈り、感謝を捧げる体験は、家族の絆をより一層深めてくれるのです。


人生儀礼をより深くするために|参拝のポイント


人生儀礼の参拝をより意味深いものにするために、いくつかのポイントをお伝えします。

事前の準備と予約が大切です。特に祈祷を希望される場合は、必ず事前に神社にお電話でご連絡ください。日程の調整や、必要な準備についてご説明いたします。

服装については、神様の前に出るのにふさわしい、清潔で品のある装いを心がけてください。特別に高価な服である必要はありませんが、だらしない格好は避けましょう。

可能であれば家族そろって参拝することをお勧めします。特に祖父母の方にも参加していただけると、三世代で喜びを分かち合う素晴らしい機会となります。

御初穂料(祈祷料)については、事前に神社にお尋ねください。金額の目安をお伝えしますが、何より大切なのは感謝の気持ちです。

撮影については、神社によってルールが異なりますので、必ず事前に確認してください。神聖な儀式の最中は撮影をご遠慮いただく場合もあります。

そして、遠方にお住まいの方や、様々な事情で直接お参りできない方のために、最近ではオンライン祈祷や郵送でのお守り授与を行っている神社も増えています。大切なのは神様への真心ですから、形にこだわりすぎる必要はありません。


最後に、宮司として皆さんにお伝えしたいこと


人生儀礼は、私たちの人生を豊かにし、深い意味を与えてくれる貴重な機会です。現代社会では忙しさに追われがちですが、人生の大切な節目には少し立ち止まって、これまでの歩みを振り返り、これからの道のりに思いを馳せる時間を持つことが大切だと思います。

神社は、そうした静かな時間を過ごしていただける場所として、いつでも皆さんをお待ちしています。形式にとらわれすぎることなく、素直な心で神様に向き合っていただければ、きっと心に残る素晴らしい体験となることでしょう。

皆さんの人生の大切な節目に立ち会わせていただけることを、心より楽しみにしています。